工事書類の保存期間と保存方法|法令別の年数早見表
目次
工事書類の保存期間は、根拠となる法令が複数にまたがるため、一覧で把握しにくいところです。建設業法、労働安全衛生法、労働基準法、税法。同じ現場の書類でも、根拠が違えば年数が変わります。
この記事では、工事書類の保存期間を法令別に整理し、保存方法と廃棄の進め方まで書きます。ここに載せる年数は一般的に説明されている内容であり、自社の書類がどれに当たるかは、行政書士や所管の窓口に確認してください。
結論:工事書類の保存期間は「根拠法」で分けて管理する
工事書類の保存でつまずくのは、書類の種類ではなく根拠法で年数が決まるためです。同じファイルに違う年数の書類が混ざっていると、廃棄のときに1枚ずつ判断することになります。
| 根拠 | 代表的な書類 | 年数の目安 |
|---|---|---|
| 建設業法 | 帳簿、施工体制台帳 | 5年(一部10年) |
| 建設業法 | 営業に関する図書(完成図、打合せ記録、施工体系図) | 10年 |
| 労働安全衛生法・関係規則 | 定期自主検査記録、健康診断個人票 | 3年・5年など |
| 労働基準法 | 労働者名簿、賃金台帳 | 5年(当分の間3年) |
| 税法・会計 | 契約書、請求書、帳簿類 | 会社の状況による |
ポイントはここです。ファイルを根拠法ごとに分け、背表紙に廃棄可能年月を書く。これだけで、整理と廃棄が一度で済みます。
建設業法に基づく保存期間
帳簿とその添付書類
建設業の許可を受けた業者は、営業所ごとに帳簿を備え、保存する義務があります。
| 書類 | 保存期間 |
|---|---|
| 帳簿とその添付書類 | 原則5年 |
| 帳簿(発注者と締結した住宅を新築する建設工事に係るもの) | 10年 |
起算点は、建設工事の目的物の引渡しをしたときです。工事完了時点ではなく、引き渡し時点から数えます。
施工体制台帳
| 書類 | 保存期間 |
|---|---|
| 施工体制台帳 | 5年 |
| 施工体制台帳(住宅を新築する建設工事に係るもの) | 10年 |
施工体制台帳の作成義務は、発注者から直接請け負った特定建設業者が一定金額以上の下請契約を結んだ場合などに生じます。この金額基準は、2025年2月1日施行の改正により、下請代金の総額5,000万円以上(建築一式工事は8,000万円以上)に引き上げられました。公共工事では金額にかかわらず作成が必要とされています。
営業に関する図書
| 書類 | 保存期間 |
|---|---|
| 完成図 | 10年 |
| 工事内容に関する発注者との打合せ記録 | 10年 |
| 施工体系図 | 10年 |
打合せ記録が10年である点は見落とされがちです。日報や議事録に記録した発注者との協議内容が、これに当たることがあります。
労働安全衛生法に基づく保存期間
| 記録 | 保存期間 |
|---|---|
| 車両系建設機械の定期自主検査(年次・月例) | 3年 |
| 移動式クレーン等の定期自主検査 | 3年 |
| フォークリフトの定期自主検査 | 3年 |
| 足場の点検記録(組立・変更後、悪天候後) | 足場を使用する作業を行う期間+3年 |
| 定期健康診断個人票 | 5年 |
足場の点検記録は起算が特殊です。使用している期間中は保存し続け、その作業が終わってからさらに3年です。
作業開始前点検については、記録の保存年数が法令で定められていないものがあります。ただし、実務上は社内基準で残しておくのが一般的です。詳しくは点検記録の管理方法にまとめました。
労働基準法に基づく保存期間
| 書類 | 保存期間 | 起算点 |
|---|---|---|
| 労働者名簿 | 5年(当分の間3年) | 退職・死亡の日 |
| 賃金台帳 | 5年(当分の間3年) | 最後の記入をした日 |
| 出勤簿・タイムカード | 5年(当分の間3年) | 最後の記入をした日 |
2020年4月の労働基準法改正により保存期間が5年に延長されましたが、経過措置として当分の間は3年とされています。運用の詳細は、所轄の労働基準監督署に確認してください。
保存期間が明示されていない書類の扱い
工事日報、作業日報、KY用紙、安全日誌、工事写真などは、それ自体の保存期間が法令で一律に定められているわけではありません。
ただし、次の理由から一定期間は保管しておく価値があります。
- 発注者との協議や指示の記録が、営業に関する図書の根拠になることがある
- 引き渡し後の不具合について、施工が適切だったことを示す資料になる
- 災害が起きたときの原因究明と、対応の証明に使える
- 次の現場の積算・工程計画の資料になる
引き渡し後10年程度を社内基準としている会社が多いようです。契約不適合責任の期間を考慮した運用です。
工事書類の保存方法
ファイルを根拠法で分ける
同じファイルに5年のものと10年のものを混ぜると、廃棄のときに1枚ずつ判断することになります。根拠法ごとに分けて綴じると、ファイル単位で廃棄できます。
背表紙に廃棄可能年月を書く
「◯◯工事/帳簿関係/廃棄可 2032年3月以降」のように書いておきます。引き渡し日から起算して計算した年月を書くのがポイントです。
引き渡し時にまとめる
工事完了時ではなく、引き渡し時に書類をまとめます。引き渡し日が起算点になるためです。まとめる作業を工事完了時にやってしまうと、起算日を書き間違えることがあります。
電子で保存する場合
電子帳簿保存法など、電子データでの保存に関する要件が定められている書類があります。税務関係の書類については要件が細かく定められているため、税理士に確認してください。
工事写真や点検記録を電子で保存する場合は、バックアップを最低2か所に取ることが実務上の必須条件になります。
保存期間が過ぎた書類の廃棄
廃棄の手順
- 背表紙の廃棄可能年月を確認する
- 中身を確認し、他の根拠で残す必要がないかを見る
- 廃棄の記録を残す(何を、いつ、誰が廃棄したか)
- 個人情報を含むものは、溶解処理や裁断で処分する
作業員名簿など個人情報を含む書類は、そのまま捨てないよう注意します。
廃棄しないほうがいい書類
保存期間が過ぎていても、次のものは残しておく価値があります。
- 過去の実行予算と実績原価(次の積算の資料)
- 主要な工事の完成図と写真(実績の証明)
- 災害・トラブルの記録と対応(再発防止の資料)
保存期間の管理表を作る
工事書類の保存期間は根拠法ごとに違うため、書類ごとに年数を覚えるのは現実的ではありません。管理表を1枚作って、そこを見る形にします。
管理表の列
| 列 | 書く内容 |
|---|---|
| 工事名・工事番号 | どの工事のものか |
| 書類の種類 | 帳簿/施工体制台帳/完成図/点検記録 など |
| 根拠 | 建設業法/労働安全衛生法/労働基準法 など |
| 保存年数 | 5年/10年/3年 など |
| 起算日 | 引渡し日/最後の記入日/退職日 など |
| 廃棄可能年月 | 起算日+保存年数で計算した年月 |
| 保管場所 | 本社◯棚/電子(フォルダ名) |
「廃棄可能年月」を計算して書いておくのが要点です。ここが書いてあれば、棚卸しのときに背表紙を見るだけで判断できます。
起算日を間違えない
起算日は書類によって違います。
- 建設業法の帳簿・施工体制台帳:建設工事の目的物の引渡しをしたとき
- 労働者名簿:退職・死亡の日
- 賃金台帳:最後の記入をした日
- 足場の点検記録:足場を使用する作業を行う期間の終了時(+3年)
工事完了日と引渡し日は違います。ここを取り違えると、保存期間が足りなくなります。
引き渡し時にまとめる
管理表は、引き渡し時に記入します。工事完了時にやってしまうと、起算日を書き間違えます。引き渡しが済んでから、その日付で計算します。
年1回、棚卸しに使う
年度替わりや決算期に、この表を見て廃棄可能なファイルを抜き出します。中身を確認し、他の根拠で残す必要がないかを見てから廃棄します。
個人情報を含む書類は、そのまま捨てずに溶解か裁断で処分します。廃棄したら、何を・いつ・誰が廃棄したかを記録に残します。
電子で保存しているものも同じ表に載せる
紙と電子が別々に管理されていると、片方だけ廃棄されたり、逆に残り続けたりします。同じ表に載せて、保管場所の欄で区別すると管理が1本になります。
工事書類の保存でよくある失敗
| 失敗 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 年数の違う書類を混ぜる | 廃棄のたびに1枚ずつ判断 | 根拠法ごとにファイルを分ける |
| 起算点を工事完了日にする | 保存期間が足りなくなる | 引き渡し日から起算する |
| 背表紙に年月を書かない | 捨てていいか分からず溜まる | 廃棄可能年月を書く |
| 現場終了後に散逸する | 保存義務を果たせない | 引き渡し時に引き継ぎ先を決める |
| 電子データのバックアップが1か所 | 故障で全部失う | 最低2か所に置く |
| 個人情報をそのまま廃棄 | 情報漏えいのリスク | 溶解・裁断で処分する |
よくある質問
保存期間の起算点はいつですか
書類によって違います。建設業法上の帳簿と施工体制台帳は建設工事の目的物の引渡しをしたとき、労働者名簿は退職・死亡の日、賃金台帳は最後の記入をした日です。起算点を間違えると保存期間が足りなくなるため、書類ごとに確認してください。
電子データだけで保存してもいいですか
書類によって要件が異なります。税務関係は電子帳簿保存法の要件があり、現場に備え置くことが求められる書類は、提示できる状態にしておく必要があります。判断に迷う場合は、税理士や所管の窓口に確認してください。
保存期間を過ぎた書類は捨てないといけませんか
保存期間は「最低限これだけは残す」という期間なので、それ以上残すことに問題はありません。ただし、個人情報を含む書類を必要以上に持ち続けるのは、管理の負担とリスクになります。
下請として工事に入った場合も保存義務がありますか
建設業許可を受けている業者は、元請・下請にかかわらず帳簿の備え付けと保存の義務があります。自社に必要な範囲は、行政書士や許可行政庁の窓口に確認してください。
保存期間が過ぎた書類はすぐ捨てるべきですか
捨てる義務はありません。ただし、個人情報を含む書類を必要以上に持ち続けるのは、管理の負担とリスクになります。過去の実行予算や主要工事の完成図など、次に活きるものは残す判断もあります。
電子帳簿保存法への対応が必要ですか
税務関係の書類については、電子で保存する場合の要件が定められています。要件は改正されることがあるため、税理士に確認してください。工事写真や点検記録は、この法律とは別の扱いになります。
書類をスキャンして紙を捨ててもいいですか
書類の種類によって扱いが違います。税務関係の書類はスキャナ保存の要件があり、現場に備え置くことが求められる書類は提示できる状態が必要です。一律に判断せず、種類ごとに確認してください。
保存期間の起算日が分からない書類があります
引き渡し日、最後の記入日、退職日など、書類によって違います。分からない場合は、長いほうで見積もっておくのが安全です。管理表に起算日と根拠を書いておくと、次から迷いません。
会社が保存場所に困っています
年1回の棚卸しをしていないことが多くあります。背表紙に廃棄可能年月を書いて、期限が過ぎたものを抜く運用にすると、量が一定に保たれます。外部の保管サービスを使う方法もあります。
保存期間について誰に相談すればいいですか
建設業法に関することは行政書士や許可行政庁の窓口、労働関係は所轄の労働基準監督署、税務関係は税理士です。この記事の年数は一般的に説明されている内容なので、自社の書類がどれに当たるかは必ず確認してください。
まとめ
工事書類の保存期間は、根拠法で決まります。建設業法の帳簿と施工体制台帳は原則5年(一部10年)、営業に関する図書は10年、労働安全衛生法の定期自主検査記録は3年、労働基準法の労働者名簿と賃金台帳は5年(当分の間3年)が目安です。
保存の要は、根拠法ごとにファイルを分け、背表紙に廃棄可能年月を書くこと。起算点は書類によって違い、建設業法の帳簿は引き渡し日からです。工事完了時ではなく引き渡し時に書類をまとめると、起算日を間違えません。自社の書類がどれに当たるかは、専門家への確認をお勧めします。