建設DXとは?何から始めるか、小さい会社の進め方
目次
建設DXという言葉は、BIM、ICT施工、ドローン、AIといった大がかりな話とセットで語られることが多く、中小の工事会社にとっては自分の話に思えないことがあります。
この記事では、建設DXとは何を指すのかを整理したうえで、現場数が少ない会社が実際に何から始められるかを書きます。大きな投資を前提としない範囲に絞ります。
結論:建設DXとは「情報の流れを変えること」
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を使って仕事の進め方そのものを変える取り組みを指します。建設DXは、それを建設業に当てはめたものです。
道具を新しくすることがDXではありません。紙をタブレットに置き換えても、同じ流れで同じ人が同じ作業をしているなら、変わったのは道具だけです。
| 道具の置き換え | 情報の流れが変わる |
|---|---|
| 紙の日報をタブレットで入力する | 現場の入力がそのまま集計・報告になる |
| 図面をPDFで見る | 変更が全員に即時に伝わる |
| 写真をデータで保存する | 撮影と同時に整理され、探せる |
ポイントはここです。「今やっている作業がなくなるか」を基準にすると、DXかどうかが判断できます。
建設DXが注目されている背景
人手不足と高齢化
建設業では就業者の減少と高齢化が続いており、少ない人数で同じ量の工事をこなす必要が出ています。
時間外労働の上限規制
2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。原則として月45時間・年360時間が上限です(特別条項による例外や、災害の復旧・復興事業に関する取扱いがあります)。
残業で吸収する前提の運用が成り立たなくなったことが、業務の見直しを迫る大きな要因になっています。
施工体制や記録に関する制度の変化
安全に関する規則の改正、電子納品の要領、電子帳簿保存に関する要件など、記録の扱いに関する要求が細かくなっています。紙のままだと対応の負担が増える場面が出てきています。
建設DXの範囲
建設DXと呼ばれるものは幅が広く、投資の規模も大きく違います。
| 領域 | 例 | 投資規模 |
|---|---|---|
| 現場の記録 | 写真管理、日報、点検、書類 | 小 |
| 情報共有 | 図面の共有、連絡、工程共有 | 小 |
| 管理業務 | 原価管理、勤怠、請求 | 中 |
| 測量・出来形 | ドローン、3Dスキャナ | 中〜大 |
| 設計・施工計画 | BIM/CIM | 大 |
| 施工の自動化 | ICT建機、マシンガイダンス | 大 |
中小の工事会社が効果を出しやすいのは、上の2つ(現場の記録と情報共有)です。投資が小さく、効果が日常業務に直結します。
小さい会社が建設DXを始める手順
手順1:時間の使い道を測る
まず、1週間でいいので時間を測ります。測る項目は次の5つです。
- 写真の整理と台帳作成
- 日報の記入と集計
- 書類を探す時間
- 転記(紙からExcelなど)
- 書類のための移動
測らずに始めると、思い込みで対象を選ぶことになります。
手順2:一番時間を取られている業務を1つ選ぶ
多くの現場では、写真か日報が上位に来ます。全部を一度に変えようとせず、1つに絞ります。
手順3:道具を変える前に、様式と運用を整える
ここが飛ばされがちです。次の3つを先にやると、後の効果が大きくなります。
- 様式を全現場・全協力会社で統一する
- 記録の置き場所と命名ルールを決める
- 業務の分担(誰が何を記録するか)を決める
整理されていない状態でデジタル化すると、入力先が1つ増えるだけになります。
手順4:1つの現場で試す
いきなり全社で始めず、1現場で1〜2か月試します。この期間で、想定していなかった問題が必ず出ます。
手順5:効果を測って、次に広げる
手順1で測った時間を、もう一度測ります。減っていれば次の業務へ、減っていなければ原因を確認します。
投資をせずにできること
建設DXは、必ずしも新しいシステムの導入から始める必要はありません。費用をかけずに情報の流れを変えられる部分があります。
| やること | 効果 |
|---|---|
| 様式を全現場で統一する | 転記と集計の手間が減る |
| 記録の置き場所を1か所に決める | 探す時間が減る |
| ファイル名の命名ルールを決める | 検索できるようになる |
| 転記している箇所をなくす | 作業時間とミスが減る |
| 連絡の入口を1つにする | 伝達漏れが減る |
| 会社名・工種のマスタを作る | 表記ゆれによる集計の崩れが消える |
この6つだけでも、体感できる効果が出ることがあります。しかも、ここが整っているほど、後からシステムを入れたときの効果が大きくなります。
建設DXを1年の計画にする
建設DXは、思いついたときに手を付けると続きません。1年の計画にして、四半期ごとに区切ると、無理なく進められます。小さい会社でも実行できる粒度で並べます。
第1四半期:測る・整える
- 1週間、作業時間を測る(写真、日報、探す、転記、移動)
- 一番時間を取られている業務を1つ特定する
- その業務の様式を全現場・全協力会社で統一する
- 記録の置き場所と命名ルールを決める
この3か月は道具を買いません。費用をかけずにできることを先に片付けます。ここだけでも体感できる効果が出ることがあります。
第2四半期:試す
- 課題に合う道具の候補を3社に絞る
- 実際に使う人に試してもらう
- 1現場で1〜2か月の試験運用をする
- 作業時間をもう一度測る
試験運用で合わなければ、ここで止めます。止める判断ができるのが、段階を踏む一番の利点です。
第3四半期:広げる
- 新規に着工する現場から使い始める
- 数現場ずつ増やす
- 移行日を決めて、紙との併用をやめる
- 入力率と入力の遅れを見る
過去のデータは移しません。保存期間が残っている紙の記録は、紙のまま保管します。
第4四半期:次を決める
- 対象業務の作業時間を測って、効果を確認する
- 定着していない部分の原因を聞く
- 次に手を付ける業務を1つ決める
- 翌年の計画を書く
計画を1枚にして共有する
この計画を紙1枚にして、社内で共有します。「今年は写真だけ」と明示しておくと、途中で別の話が持ち込まれても軸がぶれません。
うまくいかないときは戻る
計画どおりに進まないことは普通にあります。第2四半期で合わないと分かったら、第1四半期に戻って課題を見直すほうが、無理に進めるより早く着地します。
建設DXでよくある失敗
| 失敗 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 道具の導入から始める | 使われずに終わる | 課題の特定から始める |
| 全部を一度に変える | 混乱して元に戻る | 1つの業務から始める |
| 紙とデジタルを併用する | 二度手間で負担が増える | どちらかに決める |
| 現場に相談せず決める | 使われない | 使う人に試してもらう |
| 効果を測らない | 続ける理由が説明できない | 始める前に時間を測る |
| 補助金の期限に合わせて急ぐ | 合わないものを入れる | 課題に合うかを優先する |
よくある質問
小さい会社でも建設DXは必要ですか
規模にかかわらず、時間外労働の上限規制がある以上、少ない時間で同じ量をこなす必要は共通しています。ただし、大がかりな投資が必要とは限りません。様式の統一や置き場所の整理から始められます。
補助金は使えますか
IT導入補助金など、業務システムの導入に使える制度があることがあります。制度の内容と要件は年度によって変わるため、中小企業庁や各制度の公式サイト、商工会議所などで最新の情報を確認してください。
BIMやICT施工は中小企業でも必要ですか
公共工事の要求や取引先の要請によって必要になることがあります。ただし、必要が生じていない段階で先行投資する必然性は高くありません。現場の記録と情報共有のほうが、効果が出るまでの距離が短くなります。
何から手をつければいいか分かりません
1週間、時間の使い道を測ってみてください。一番時間を取られている作業が見つかれば、そこが最初の対象です。多くの現場では写真か日報が上位に来ます。
建設DXは誰が担当すればいいですか
専任を置ける会社は多くありません。現場の実務が分かる人が兼務するのが現実的です。システムに詳しい人より、どこで時間が取られているかを知っている人のほうが、対象を選び間違えません。ただし、担当者の名前だけは決めておきます。「誰かが」の状態だと、問題が起きたときに止まります。
ペーパーレスにしないといけませんか
目的は紙をなくすことではなく、情報の流れを変えることです。法令で備え置きや保存が求められる書類は残ります。現場で書くほうが速いものは紙のままでも構いません。判断の基準は、その紙が転記を生んでいるかどうかです。転記を生んでいない紙は、無理に置き換える必要がありません。
社員が高齢で、デジタル化に抵抗があります
全員に同じ道具を使わせる必要はありません。紙で受け取る人がいてもよく、元請側で集約すればいいという考え方で回せます。無理に統一すると、その人からの情報が上がらなくなり、かえって見えない部分が増えます。
効果が出るまでどのくらいかかりますか
様式の統一や置き場所のルール決めは、1か月ほどで体感できる変化が出ることがあります。道具を入れる場合は、試験運用に1〜2か月、定着まで含めると半年程度を見ておくと計画が立てやすくなります。
建設DXという言葉を社内で使うべきですか
使わなくても構いません。「日報の転記をなくす」「写真の整理を減らす」といった具体的な言い方のほうが、現場に伝わります。言葉が先に立つと、何をするのか分からないまま議論だけが続きます。
同業他社の事例を参考にしてもいいですか
参考になりますが、規模と工種が違うと最適解も違います。「うちと同じくらいの規模で、同じ工種の会社」の事例を探すほうが役に立ちます。展示会や業界団体の集まりで聞くのが現実的です。
若い社員に任せてもいいですか
道具の操作は任せられますが、どの業務が重いかの判断は、実務が分かる人と一緒に行うほうが外しません。操作が得意な人が対象を選ぶと、効果の小さい業務に手を付けがちです。
途中でやめてもいいですか
かまいません。試験運用で合わないと分かった時点でやめる判断ができるのが、段階を踏む一番の利点です。合わないものを全社に広げてから気づくほうが、はるかに損失が大きくなります。
建設DXに取り組まないとどうなりますか
すぐに困ることはありませんが、人手が減り、残業の上限が決まっている以上、同じやり方では扱える工事量が頭打ちになります。まずは時間を測って、現状を把握するところから始めれば十分です。
まとめ
建設DXとは、デジタル技術を使って情報の流れそのものを変える取り組みです。紙をタブレットに置き換えるだけでは、道具が変わっただけになります。「今やっている作業がなくなるか」が判断の基準になります。
中小の工事会社が効果を出しやすいのは、現場の記録と情報共有の領域です。始め方は、時間を測る、1つの業務に絞る、様式と運用を先に整える、1現場で試す、効果を測る、という順番になります。
そして、様式の統一や置き場所のルール決めなど、費用をかけずにできることが先にあります。ここが整っているほど、後から仕組みを入れたときの効果が大きくなります。