Excel管理とシステム管理の違い|切り替える線
目次
Excel管理とシステム管理は、どちらが優れているという関係ではありません。規模と使い方によって、向き不向きが分かれるだけです。現場数が少ない会社では、Excelのほうが速くて自由という場面が多くあります。
この記事では、Excel管理とシステム管理の違いを項目ごとに整理し、どんな状態になったら切り替えを検討する時期なのかを書きます。Excelを否定する立場では書きません。
結論:分かれ目は「同時に触る人の数」と「探す時間」
Excel管理とシステム管理の違いは、機能の差よりも前提としている使い方の差にあります。
| Excel管理 | システム管理 | |
|---|---|---|
| 前提 | 1人が1つのファイルを開いて編集する | 複数人が同時に同じデータを見る |
| 強み | 自由に作れる、費用が安い、覚えることが少ない | 同時更新、検索、履歴、権限 |
| 弱み | 同時編集、版の管理、大量データ | 様式の自由度、費用、習熟 |
| 向く規模 | 現場5つ程度、触る人2〜3人まで | 現場が多い、複数人で共有 |
ポイントはここです。「最新版はどれか」を探す会話が出はじめたら、Excelが前提としている使い方を超えています。
項目別に見た違い
同時編集
| Excel | システム | |
|---|---|---|
| 複数人が同時に編集 | 基本的にできない(読み取り専用になる) | できる |
| 誰かが開いていると | 待つか、コピーを作る | 影響なし |
| 変更の衝突 | 上書きで消える | 履歴で追える |
「今開いていますか」の確認が毎日発生しているなら、この点が限界に来ています。
版の管理
Excelでは、ファイル名で版を管理することになります。ルールを決めていないと、「最新」「修正版」「新」が並びます。
システムでは、最新版が1つだけ存在し、過去の版は履歴として残るのが一般的です。
検索
| Excel | システム | |
|---|---|---|
| 1ファイル内の検索 | できる | できる |
| 複数ファイルをまたぐ検索 | 手間がかかる | できる |
| 写真の中身での絞り込み | 難しい | 属性で絞り込める |
過去の現場の記録を探すときに差が出ます。
権限
Excelでは、ファイル単位でしか制御しにくく、見せたくない情報も一緒に見えてしまうことがあります。原価情報を協力会社に見せられない、といった場面で問題になります。
システムでは、人ごと・項目ごとに権限を分けられるのが一般的です。
現場からの入力
Excelは、現場のスマートフォンから編集するのが現実的ではありません。紙に書いて持ち帰り、事務所で入力する流れになります。
システムやアプリは、現場からの入力を前提に作られています。
費用
| Excel | システム | |
|---|---|---|
| 初期費用 | すでにある場合が多い | 設定・移行の費用がかかる |
| 月額 | なし(Officeの契約に含まれる) | 人数・現場数に応じてかかる |
| 教育 | 少ない | 操作の習熟が必要 |
| 見えない費用 | 転記・探す時間 | 使わない機能の分の料金 |
Excelは「時間」という形で費用を払っていると考えると、比較しやすくなります。
様式の自由度
Excelの最大の強みです。思いついた形をすぐ作れます。システムでは、決められた項目の範囲で使うことになり、独自の様式が必要な場合に困ることがあります。
切り替えを検討する判断ライン
次のうち3つ以上に当てはまるなら、検討する時期です。
| サイン | 何が起きているか |
|---|---|
| ファイル名に「最新」「修正版」が並ぶ | 版が管理できていない |
| 「今開いていますか」の確認が毎日ある | 同時編集の限界 |
| 集計に半日以上かかる | 転記の量が限界を超えている |
| 過去の記録を探すのに30分以上かかる | 検索の限界 |
| 現場から写真をメールで送ってもらっている | 現場と事務所がつながっていない |
| 数式が壊れて誰も直せない | 属人化している |
| ファイルが重くて開けない | データ量の限界 |
| 見せたくない情報まで共有している | 権限の限界 |
逆に、当てはまるものが1つもなければ、急ぐ必要はありません。
切り替えるときの進め方
全部を一度に移さない
工程も原価も写真も書類も一度に移すと、たいてい元に戻ります。一番時間を取られている1つから移します。多くの現場では写真か日報です。
過去データは移さない
進行中の現場を含めてすべて移そうとすると、移行だけで数か月かかります。新規の現場から使い始めるのが、最も摩擦が少ない方法です。
様式を先に整理する
整理されていない様式をそのままシステムに載せると、使いにくい設定になります。先に、使わない欄を消し、選択式にできるものを選択式にしておきます。
Excelを併用してもいい
すべてをシステムに寄せる必要はありません。集計や分析はExcelのほうが速い場面があります。システムからデータを出してExcelで加工する、という使い方は一般的です。
Excelとシステムを併用するときの分担
システムを入れたからといって、Excelを捨てる必要はありません。多くの会社が併用しています。分担を決めておくと、どちらも使いやすくなります。
記録はシステム、分析はExcel
システムが得意なのは、記録を1か所に集めて、複数人で共有し、検索できる状態にすることです。一方、Excelが得意なのは、手元で自由に集計して、その場で形を変えることです。
日々の記録はシステムに集め、月次の分析はデータを出してExcelでやる。この分担が最も一般的です。
システムから出したデータをどう使うか
システムからCSVで出したデータは、そのままピボットテーブルにかけられます。会社別の人工、工種別の数量、手待ちの原因別時間といった集計は、Excelのほうが速く作れます。
報告書の形式が社内で決まっている場合も、Excelで整えたほうが早いことが多くあります。
Excelに残す業務
次のような業務は、システムに移さずExcelのままにしている会社が多くあります。
- 実行予算の作成(数式を自由に組む必要がある)
- 見積の比較検討
- 社内の独自集計
- 発注者ごとに形式が違う報告書
「その現場だけ」「その発注者だけ」の様式は、システムに載せると設定が複雑になります。Excelのほうが扱いやすい領域です。
二重管理にしない
併用でやってはいけないのは、同じ情報を両方に入力することです。これは併用ではなく二重管理で、負担が増えるだけになります。
原則は、入力は1か所、そこから出して加工するです。Excel側で加工した結果をシステムに戻す必要はありません。
データを出せるかを確認しておく
この使い分けが成立するのは、システムからデータを出せる場合だけです。選定の段階で、CSVなどでデータを出せるかを必ず確認しておきます。
出せない製品を選ぶと、システムの中の集計機能で我慢することになり、自社の求める形の集計ができなくなります。
Excelを使い続ける場合の改善
切り替えないと決めた場合でも、Excelのままで改善できることがあります。
- 1ファイル1目的に分ける(工程、日報、原価、写真台帳を混ぜない)
- 日報や原価は縦持ち(1行1レコード)で作る
- 入力規則のリストで表記ゆれを防ぐ
- ファイル名の命名ルールを決める(日付を先頭に、「最新」を使わない)
- 共有フォルダに置き、個人PCに置かない
- 入力欄以外はシートの保護をかける
この6つだけでも、Excel管理の弱点はかなり補えます。詳しくは現場管理をExcelで行う方法にまとめました。
判断ラインを数字で決める
「そろそろ限界かも」で判断すると、いつまでも決まりません。次のどれかに当てはまったら検討する、と数字で決めておきます。
| 判断ライン | 数字の目安 | 何が起きているか |
|---|---|---|
| 同時に触る人の数 | 3人を超えた | 誰かが読み取り専用になる。上書きが起きる |
| ファイルのバージョン | 「最新」「修正版」が2つ以上並ぶ | どれが本物か分からない |
| 1件を探す時間 | 5分以上 | 名前と置き場所が揃っていない |
| 月末の集計にかかる時間 | 半日以上 | 転記が残っている |
| ファイルサイズ | 開くのに10秒以上 | 写真か、列全体参照 |
| 同じ情報を書く回数 | 3回以上 | 転記が構造化している |
| 現場数 | 同時10現場以上 | 一覧で見る必要が出ている |
「同時に触る人が3人を超えた」が、最も分かりやすい線です。Excelは1人が編集する道具として作られているため、ここを超えると運用のルールでは支えきれなくなります。
当てはまっても、すぐ切り替えなくてよい
1つ当てはまっただけなら、Excel側の改善で解決することが多くあります。
| 当てはまったもの | まずやる改善 |
|---|---|
| 探すのに5分以上 | ファイル名と置き場所を決める |
| 集計に半日 | 1行1レコードの縦持ちにする。テーブルにする |
| ファイルが重い | 写真を圧縮する。列全体参照をやめる |
| 転記が3回以上 | 1か所に書いて、他は添付にする |
3つ以上が同時に当てはまったら、道具のほうを変える段階です。
Excelのままで伸ばす方法
切り替えの前に、Excel側でできることが残っていることがあります。
縦持ちにする
日付を横に並べる形(クロス集計)で作ると、月をまたいだ集計ができません。1行1レコードの縦持ちにすると、ピボットテーブルでほとんどの集計が出ます。
テーブルにする
範囲を選んで Ctrl+T。行が増えても数式と書式が広がり、固定範囲による集計漏れがなくなります。
入力規則で表記を揃える
現場名・会社名・工種・単位は、リストから選ぶ形にします。「A建設」と「A建設(株)」が混ざると、集計で別会社に分かれます。
シートを保護する
入力する範囲だけロックを外し、シートを保護します。数式の列を上書きされる事故が防げます。
置き場所を1つにする
共有ドライブかクラウドの1か所。個人のデスクトップにコピーを置かないというルールだけで、バージョンの混乱はかなり減ります。
この5つをやってもまだ苦しいなら、Excelの問題ではなく規模の問題です。そのときは道具を変える判断に進んでください。
よくある質問
Excelは古いやり方ですか
そうとは言えません。現場数が少なく、触る人が限られているなら、Excelのほうが速くて自由です。判断は流行ではなく、自社の規模と困りごとで決めるのが実務的です。
表計算の共有サービスに移せば解決しますか
同時編集と、スマートフォンからの閲覧については解決します。ただし、版の管理や権限の細かい設定、写真の大量管理には向きません。中間的な選択肢として検討する価値はあります。
システムを入れたらExcelは使わなくなりますか
なりません。多くの会社が併用しています。システムからデータを出して、Excelで集計や分析をするという使い方が一般的です。
費用対効果はどう計算しますか
現状の作業時間を1週間ぶん測り、削減できる見込み時間を金額に換算して、システムの総額(初期費用+月額+端末+通信費)と比べます。測っていないと比較できないため、検討を始める前に測ってください。
会計ソフトはシステムに含まれますか
現場管理システムと会計ソフトは別のものとして扱われることが多くあります。原価管理の機能を持つ現場管理システムでも、決算や仕訳までは扱わないのが一般的です。連携できるかは製品ごとに違うため、確認が必要です。
途中でExcelに戻すことはできますか
データを出せる状態であれば戻せます。これも「解約時にデータを持ち出せるか」の確認に含まれます。戻す前提で考える必要はありませんが、戻れない状態にしておくのは避けたほうが安全です。
Excelのスキルがある人が辞めたら困りませんか
数式が複雑で本人しか直せない状態は、Excelの弱点の1つです。数式を減らして、集計はピボットテーブルで行う形にしておくと、属人化がかなり減ります。ファイルの作り方をメモに残しておくのも有効です。
システムを入れてもExcelの数式の自由度は要りますか
要る場面があります。実行予算、見積の比較、発注者ごとに形式が違う報告書。「その現場だけ」「その発注者だけ」の様式は、Excelのほうが扱いやすい領域です。無理に全部を移す必要はありません。
表計算の共有サービスとExcelを併用してもいいですか
しています。現場と共有するものは共有サービス、社内で作り込むものはExcelという使い分けが実務的です。ただし、同じ情報を両方に入れる二重管理にならないよう注意します。
判断に迷ったらどうすればいいですか
判断ラインの8つのサインのうち、当てはまるものが3つ未満なら急ぐ必要はありません。まずExcelのままできる改善(1ファイル1目的、縦持ち、入力規則、命名ルール)を試して、それでも解決しないなら道具を変える、という順番が確実です。
併用すると管理が二重になりませんか
入力を1か所に決めていれば二重になりません。システムに入力し、Excelは出したデータを加工するだけという分担にします。Excel側で加工した結果をシステムに戻す運用にすると、二重管理になります。
まとめ
Excel管理とシステム管理の違いは、優劣ではなく前提としている使い方の差です。Excelは1人が1つのファイルを編集する前提、システムは複数人が同時に同じデータを見る前提で作られています。
切り替えの判断ラインは、版が管理できていない、同時編集ができない、集計に半日かかる、探すのに時間がかかる、といったサインが3つ以上出ているかどうかです。1つも当てはまらないなら、急ぐ必要はありません。
切り替えるときは、全部を一度に移さず、過去データは移さず、様式を先に整理する。そして、切り替えたあともExcelとの併用は普通にあります。