原価管理のやり方|実行予算の組み方と赤字現場の早期発見
目次
原価管理は、竣工してから「思ったより残らなかった」と分かることが一番多い管理です。工事中は工程と安全に追われ、原価は月末の集計だけ。それでは、赤字になりかけていても手を打つ時期を逃します。
この記事では、工事の原価管理のやり方を、実行予算の組み方から、月次で差を見る手順、赤字の兆候を早く見つける方法まで整理します。経理の知識がなくても、現場側で回せる範囲に絞って書きます。
結論:原価管理は「実行予算と出来高を月1回並べる」だけで9割動く
工事の原価管理でやることは、突き詰めると次の3つです。
- 着工前に実行予算を組む
- 発注のたびに予算と照らす
- 月1回、出来高と原価を並べて差を見る
ポイントはここです。難しいのは計算ではなく、続けることです。月1回、同じ様式で並べる習慣があるだけで、赤字の兆候はほぼ見つかります。逆に、この作業を飛ばすと、竣工まで気づけません。
原価管理で扱う費用の分け方
工事原価の4つの区分
工事の原価は、一般に次の4つに分けます。この分け方は工事台帳や決算の区分とも合うので、社内で統一しておくと集計が楽になります。
| 区分 | 中身 | 変動しやすい要因 |
|---|---|---|
| 材料費 | 資材、仮設材、消耗品 | 数量ロス、単価改定、再手配 |
| 労務費 | 自社作業員の人件費 | 手待ち、応援、残業 |
| 外注費 | 協力会社への支払 | 追加作業、単価交渉、歩掛の違い |
| 経費 | 機械賃料、運搬、電力、保険 | 工期延長、レンタル期間の超過 |
工期が延びると、経費と労務費が同時に膨らみます。工程の遅れが原価に直結するのは、この2つを通じてです。
原価管理と工程管理はつながっている
原価だけを見ていても、原因は分かりません。原価が悪化する主な理由は、手待ち、やり直し、追加作業、工期延長です。いずれも工程側に記録が残っているはずのものです。
原価管理のやり方【実行予算を組む】
実行予算とは何か
実行予算は、請負金額の内訳ではなく、その現場を実際に施工するのにいくらかかるかを積み上げた社内の予算です。積算(見積)とは目的が違います。
| 積算・見積 | 実行予算 | |
|---|---|---|
| 目的 | 受注するための金額 | 施工するための計画 |
| 単価 | 歩掛・相場を使う | 実際の発注見込み単価 |
| 使う人 | 営業・積算 | 現場・工務 |
実行予算を組む手順
原価管理の入口である実行予算は、次の順で組みます。
- 工種ごとに数量を拾い直す(見積の数量をうのみにしない)
- 各工種の施工方法と使う機械を決める
- 協力会社に単価を確認する
- 材料の単価と納期を確認する
- 仮設・機械賃料・運搬などの経費を積む
- 予備費を置く
5の経費が抜けやすいところです。仮設材のレンタル期間、電力、廃棄物処分費、近隣対策費は、工期に比例して増えるのに見落とされがちです。
予備費をどう扱うか
予備費を置かない実行予算は、最初の変更で崩れます。工種ごとに薄く上乗せするのではなく、独立した費目として置くほうが管理しやすくなります。どこにいくら使ったかが見えるからです。
原価管理のやり方【発注のときに照らす】
発注のたびに予算と比べる
原価管理で一番効くのは、月末の集計より発注時のチェックです。発注してしまえば、その金額は確定します。発注前に予算と比べれば、まだ選択肢があります。
チェックするのは3点です。予算内か、数量は合っているか、追加分は誰が負担するか。
現場コードを必ず入れる
複数現場を持っていると、発注が混ざります。発注書に現場コードを必ず入れる運用にすると、集計が正確になります。原価が合わない原因の多くは、実はこの混入です。
追加・変更はその日に記録する
追加工事や設計変更は、口頭で始まって書面が後追いになりがちです。発生した日に日報へ書き残すだけでも、後の交渉材料になります。日付・指示者・内容・想定される増加額の4点をメモします。
原価管理のやり方【月次で差を見る】
月次で並べる4つの数字
月1回、工種ごとに次の4つを並べます。
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 実行予算 | 使ってよい金額 |
| 発注済 | すでに約束した金額 |
| 実際原価 | 当月までに発生した金額 |
| 出来高 | 施工が進んだぶんの金額 |
見るのは、出来高と実際原価の関係です。出来高3割に対して原価が5割出ているなら、その工種は予算を超えます。
差が出たときにやること
差が出ている工種を見つけたら、原因を分けます。数量が増えたのか、単価が上がったのか、手戻りがあったのか、工期が延びたのか。原因ごとに打つ手が違うので、まとめて「赤字」と扱わないことが大事です。
| 原因 | 打つ手 |
|---|---|
| 数量増(設計変更) | 追加請求の交渉、書面化 |
| 単価上昇 | 他社見積、代替材の検討 |
| 手戻り・やり直し | 施工手順と検査の見直し |
| 工期延長 | 経費の再計算、工程の圧縮 |
| 手待ち | 段取りと材料手配の見直し |
現場と本社の分担
月次の集計は本社(工務・経理)、原因の説明は現場、というように分担すると回りやすくなります。現場が数字を作る必要はありません。出てきた数字に対して、心当たりを説明できれば十分です。
赤字現場を早く見つけるサイン
原価管理の数字が出る前に、現場で見える兆候があります。次のようなことが続いているなら、原価は確実に悪化しています。
- 手待ちが週に何度も発生している
- 同じ箇所を2回施工している
- 予定していない残業が常態化している
- 仮設材のレンタル期間が延びている
- 追加作業を口頭で受けたまま書面がない
このうち最後の1つが一番危険です。やった作業に対して請求できない状態は、そのまま利益の減少になります。
原価管理を月次で回すときの手順
原価管理は、月末に何を見るかが決まっていると15分で終わります。決まっていないと半日かかって、しかも結論が出ません。見る順番を固定しておくのが要点です。
手順1:発注済と実行予算を突き合わせる
まず、その月までに発注した金額が実行予算の範囲に収まっているかを見ます。発注は約束なので、超えていたらもう戻せません。超えている工種があれば、その理由を書き出します。数量が増えたのか、単価が上がったのか、想定していなかった作業が出たのか。
ここで理由を書いておくと、翌月に同じ工種を見たときに経緯が追えます。書かないと、月をまたいだ時点で「なぜ増えたのか」が分からなくなります。
手順2:出来高と実際原価を並べる
次に、工種ごとに出来高(施工が進んだぶんの金額)と実際原価(かかった金額)を並べます。出来高3割に対して原価が5割出ている工種は、このままだと予算を超えます。
この比較は、工事全体でやると気づけません。全体では釣り合って見えても、中身では赤字の工種と黒字の工種が打ち消し合っていることがよくあります。必ず工種ごとに見ます。
手順3:差の大きい工種を3つだけ選ぶ
すべての工種を分析しようとすると終わりません。差が大きい順に3つだけ選んで、原因と対策を書きます。残りは翌月に回します。
対策は、追加請求の交渉、単価の見直し、施工方法の変更、工程の圧縮のいずれかになることが多く、どれも早く動くほど選択肢が多くなります。
手順4:現場に説明を求める
数字を作るのは本社でも、原因を知っているのは現場です。「この工種、原価が先行しているのですが心当たりはありますか」と聞くだけで、たいてい答えが返ってきます。
手待ちが多かった、やり直しがあった、応援を入れた。こうした情報は数字には表れないので、聞かないと分かりません。日報に手待ちや追加作業が書かれていれば、この確認はさらに短く済みます。
手順5:翌月に持ち越す項目を決める
月次の締めで出た宿題を、翌月の頭に見返せる形で1か所に書いておきます。「A工種の追加分を書面化する」「B社と単価を再交渉する」といった粒度で十分です。書かないと、翌月には忘れています。
原価管理でよくある失敗
| 失敗 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 実行予算を作りっぱなし | 竣工まで赤字に気づかない | 月1回、出来高と並べる |
| 発注後にしか確認しない | 打てる手が残っていない | 発注前に予算と照らす |
| 追加を口頭で受ける | 請求できない | 発生日に日報へ記録する |
| 経費を積み忘れる | 工期延長で一気に崩れる | 仮設・機械・処分費を明細化する |
| 現場コードを入れない | 現場間で原価が混ざる | 発注書の必須項目にする |
| 赤字をまとめて扱う | 対策が決まらない | 原因を4つに分けて記録する |
よくある質問
原価管理はExcelでできますか
現場数が少なければ十分できます。工種を行、実行予算・発注済・実際原価・出来高を列にした表を1つ作るだけで始められます。発注のたびに1行足す運用にすると精度が上がります。作り方は現場管理をExcelで行う方法にまとめました。
現場担当者が原価まで見る必要がありますか
数字を作る必要はありませんが、心当たりを説明できる状態にはしておきたいところです。差が出た理由は現場にしかない情報なので、本社だけでは分析できません。
出来高はどうやって出しますか
工種ごとに「予定数量に対する完了数量」を出し、契約単価または実行予算の単価をかけて金額に換算します。数量が取りにくい工種は、工程を段階に分けて「5段階のうち3段階目」という形で出す方法もあります。
実行予算はいつ作りますか
着工前が原則です。着工してから作ると、すでに発注してしまった分を追認するだけになります。遅くとも主要な工種を発注する前には作っておきます。
実行予算は誰が作りますか
会社によりますが、現場担当者と工務(積算)が一緒に作る形が多くあります。積算の数量をそのまま使わず、施工方法を決めてから拾い直すのが精度を上げるコツです。
実行予算を超えそうなときは誰に相談しますか
早い段階で上司と工務に相談します。発注前なら選択肢がありますが、発注後は限られます。「まだ大丈夫だろう」で先送りするのが、最も選択肢を失う判断になります。
追加工事の請求はいつまでにすればいいですか
契約と発注者によりますが、発生した時点で書面化に動くのが原則です。竣工後にまとめて請求すると、認められないことがあります。日報に日付と指示者を残しておくのが最初の一歩になります。
原価が実行予算より安く済んだ場合はどうしますか
理由を記録しておきます。歩掛が想定より良かったのか、数量が少なかったのか、単価交渉が効いたのか。次の現場の実行予算に反映できる情報になります。安く済んだ理由を残している会社は多くありません。
労務費と外注費の区別が曖昧です
自社の作業員にかかる費用が労務費、協力会社への支払いが外注費です。日報に会社名が入っていれば区別できます。ここが曖昧だと、原価の内訳が実態と合わなくなります。
経費の見積もりが毎回甘くなります
仮設材のレンタル期間、電力、廃棄物処分費、近隣対策費。この4つは工期に比例して増えるのに、見落とされがちです。工期が延びたときにいくら増えるかを、実行予算の段階で試算しておくと精度が上がります。
まとめ
工事の原価管理のやり方は、実行予算を着工前に組み、発注のたびに予算と照らし、月1回、出来高と実際原価を並べて差を見る、という3ステップです。難しい計算はなく、続けられるかどうかで結果が決まります。
差が出たときは「赤字」とまとめず、数量増・単価上昇・手戻り・工期延長・手待ちのどれかに分けて記録します。原因が分かれば打つ手が決まり、次の現場の実行予算の精度も上がっていきます。