リスクアセスメントのやり方|見積り・評価・低減措置の決め方
目次
リスクアセスメントは、書式を渡されても点数の付け方で手が止まります。「可能性3、重大性4」と書いたところで、その数字にどんな根拠があるのか説明できない。そういう状態のまま形だけ運用している現場は少なくありません。
この記事では、建設現場でのリスクアセスメントのやり方を、危険の洗い出しから見積り、評価、低減措置の決定までの手順で説明します。点数の付け方に迷わないための考え方を中心に書きます。
結論:リスクアセスメントは「点数を付ける作業」ではなく「優先順位を決める作業」
リスクアセスメントの目的は、危険に点数を付けることではありません。限られた時間と費用の中で、どの危険から手を打つかを決めることです。
そのため、点数そのものの正確さより、同じ物差しで全部を並べられることのほうが重要になります。点数の絶対値ではなく、順番が付けばよいという考え方です。
建設業のリスクアセスメントは、労働安全衛生法第28条の2により努力義務とされています。義務ではありませんが、安全管理者や職長教育の内容にも含まれており、実施が広く求められています。
リスクアセスメントとKY活動の違い
| リスクアセスメント | KY活動 | |
|---|---|---|
| タイミング | 施工計画の段階、作業内容が変わったとき | 毎日、作業の直前 |
| 対象 | 工事全体・作業手順ごと | その日の作業の1場面 |
| やること | 危険性を見積もり、優先度をつけて低減措置を決める | 気づきを出して行動を決める |
| 記録 | リスクアセスメント表 | KY用紙 |
| 位置づけ | 労働安全衛生法第28条の2により努力義務 | 法令上の義務ではない |
両方を回すことで、計画段階の対策と当日の気づきがそろいます。どちらか一方では、片方が抜けます。
リスクアセスメントのやり方【手順1:危険の洗い出し】
いつ実施するか
建設現場のリスクアセスメントは、次のタイミングで行います。
- 施工計画を作るとき(着工前)
- 新しい工種に着手する前
- 作業手順、使用する機械、施工方法を変更したとき
- 災害やヒヤリハットが発生したとき
着工前に一度やって終わり、にしないことがポイントです。工事が進むと危険の種類が変わります。
誰が参加するか
計画段階は元請の技術者と安全担当、作業手順ごとは実際に作業する職長を必ず入れます。現場を知らない人だけで作ると、実態と合わない表になります。
洗い出しの材料
- 作業手順書(作業を細かい単位に分ける)
- 過去の災害事例(自社・同業種)
- ヒヤリハット報告
- 安全パトロールの指摘
- 使用する機械・工具の取扱説明書
洗い出しの書き方
危険は、KY活動と同じく「〜なので、〜して、〜になる」の形で書きます。この形にすると、後の低減措置が決まります。
- ×「墜落の危険」
- ○「足場の作業床に隙間があるので、資材を運ぶときに足を踏み外して墜落する」
リスクアセスメントのやり方【手順2:見積り】
3つの要素で見積もる
一般的には、次の3つを掛け合わせるか足し合わせて点数を出します。
| 要素 | 見るところ |
|---|---|
| 危険な状態が発生する頻度 | その作業をどのくらいの頻度で行うか |
| 災害が発生する可能性 | 危険な状態になったとき、災害に至る確率 |
| 災害の重大性 | 起きたときのけがの重さ |
点数の付け方の目安
社内で基準を決めておくと、担当者によるばらつきが減ります。たとえば次のような形です。
重大性
- 4:死亡、永久的な障害が残る
- 3:休業が必要なけが
- 2:不休災害(手当て後に作業継続)
- 1:応急手当で済む
可能性
- 4:ほぼ確実に起きる
- 3:起こる可能性が高い
- 2:起こる可能性がある
- 1:ほとんど起こらない
頻度
- 4:常時その状態にさらされる
- 3:1日に何度もある
- 2:週に数回程度
- 1:まれにある
重要なのは、この基準を文章で残しておくことです。基準がないと、次に別の人が見積もったときに数字が変わります。
点数に迷ったら重大性を優先する
見積りに迷うことは必ずあります。そのときは、重大性が高いものを優先するという原則を置いておくと判断しやすくなります。頻度が低くても、死亡につながる危険は先に手を打つ、という考え方です。
リスクアセスメントのやり方【手順3:評価と優先順位】
点数を区分に分ける
出した点数を、対応の区分に分けます。
| 区分 | 対応 |
|---|---|
| IV(最も高い) | 直ちに作業を中止し、低減措置を実施してから着手 |
| III | 速やかに低減措置を実施する |
| II | 計画的に低減措置を実施する |
| I | 必要に応じて低減措置を実施する |
区分IVが残ったまま作業を始めないというのが、リスクアセスメントを実施する意味です。
優先順位は点数順に並べるだけ
評価は難しく考えず、点数順に並べます。上から順に手を打ち、どこまでやったかを記録するだけで、優先順位が付いた状態になります。
リスクアセスメントのやり方【手順4:低減措置を決める】
低減措置には順番がある
低減措置は、思いついたものから選ぶのではなく、効果の高い順に検討します。
| 順番 | 措置 | 例 |
|---|---|---|
| 1 | 危険な作業をなくす | 高所作業を地上での先組みに変える |
| 2 | 工学的な対策 | 手すり、囲い、覆い、自動停止装置 |
| 3 | 管理的な対策 | 立入禁止、作業手順、誘導者の配置、教育 |
| 4 | 保護具の使用 | 安全帯、保護メガネ、保護手袋 |
保護具は最後です。保護具に頼る対策は、本人が使わなければ効果がゼロになります。上の順番で検討して、それでも残る危険に対して保護具を使う、という順序になります。
低減措置を決めたら再評価する
措置を実施したあと、もう一度点数を付け直します。下がっていなければ、措置が効いていないということです。
残ったリスクを共有する
すべての危険をゼロにはできません。低減措置を実施しても残るリスクは、作業員に伝えます。KY活動や作業手順書で共有するのが一般的です。
リスクアセスメントの記録
記録に残す項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施日・実施者 | いつ、誰が |
| 対象作業 | 工種、作業内容 |
| 危険性・有害性 | 〜なので、〜して、〜になる |
| 見積り(3要素と点数) | 頻度・可能性・重大性 |
| 評価区分 | I〜IV |
| 低減措置 | 実施する内容と担当・期限 |
| 実施後の再評価 | 措置後の点数と区分 |
| 残留リスク | 残る危険と周知方法 |
保存
リスクアセスメントの記録について、保存期間が法令で一律に定められているわけではありません。工事が終わるまで確実に保管し、社内基準で年数を決めて残すのが実務的です。同種工事の計画を作るときの資料にもなります。
リスクアセスメントの記入例
書式だけ見ても書きにくいので、工種別の記入例を示します。「〜なので、〜して、〜になる」の形で書くのは、KY活動と同じです。
記入例1:型枠解体(上下作業あり)
- 作業:3階west 型枠解体、手ばらし、資材の荷下ろし
- 危険性:解体材を上階から下ろすので、落下して下の作業員に当たる
- 見積り:頻度3(1日に何度もある)/可能性3(起こる可能性が高い)/重大性4(死亡につながる)
- 評価:区分IV
- 低減措置:直下を立入禁止とし、カラーコーンとバーで囲う。荷下ろし時は合図者を1名配置し、合図があるまで下階に入らない
- 実施後の再評価:頻度3/可能性1/重大性4 → 区分II
- 残留リスク:囲いの外から立ち入る可能性があるため、朝礼とKYで毎日周知する
重大性は措置をしても下がりません。下がるのは可能性です。ここを理解しておくと、点数の付け直しで迷いません。
記入例2:バックホウによる掘削
- 作業:敷地north側 根切り、バックホウ0.45m3、ダンプへの積込み
- 危険性:旋回範囲に人が立ち入るので、カウンターウェイトに挟まれる
- 見積り:頻度4(常時さらされる)/可能性3/重大性4
- 評価:区分IV
- 低減措置:旋回範囲をコーンで明示して立入禁止とする。誘導者1名を配置し、オペレーターと合図を事前に決める。資材の取り回し動線を旋回範囲の外へ変更する
- 実施後の再評価:頻度2/可能性1/重大性4 → 区分II
- 残留リスク:ダンプの入替え時に一時的に動線が交わるため、その時間帯は作業を中断する
「動線を変更する」が最も効いています。囲いと誘導者は運用の対策ですが、動線の変更は作業そのものを変える対策なので、効果が高くなります。
記入例3:内装の脚立作業
- 作業:2階east 天井下地組み、脚立作業
- 危険性:脚立の天板に立つので、バランスを崩して墜落する
- 見積り:頻度3/可能性2/重大性3
- 評価:区分III
- 低減措置:天板に立たない。開き止めを必ずかける。2m以上の高さになる範囲は可搬式作業台または足場に変更する
- 実施後の再評価:頻度3/可能性1/重大性3 → 区分II
- 残留リスク:作業台からの転落は残るため、乗降時の3点支持を周知する
リスクアセスメントでよくある失敗
| 失敗 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 着工前に1回だけ実施 | 工種が変わると実態と合わない | 工種の着手前ごとに見直す |
| 職長を入れずに作る | 実際の作業と合わない | 作業する人を必ず入れる |
| 点数の基準がない | 人によって数字が変わる | 基準を文章で残す |
| 低減措置が保護具ばかり | 本人任せになる | 効果の高い順に検討する |
| 措置後の再評価をしない | 効いているか分からない | 実施後にもう一度点数を付ける |
| 残留リスクを伝えない | 作業員が知らずに作業する | KYや手順書で共有する |
よくある質問
リスクアセスメントは法令上の義務ですか
労働安全衛生法第28条の2により、危険性又は有害性等の調査とその結果に基づく措置は努力義務とされています。ただし、化学物質については別途義務化されている範囲があります。自社の作業に何が適用されるかは、所轄の労働基準監督署に確認してください。
小規模な工事でも必要ですか
規模にかかわらず、危険な作業がある以上は同じ考え方が使えます。A4で1枚、主要な作業3〜5項目でも十分に役に立ちます。全部の作業を網羅しようとすると続きません。
点数の付け方が人によって変わります
基準が文章で残っていないことが原因です。重大性・可能性・頻度それぞれの段階に、具体的な説明を書いた基準表を作ると、ばらつきが減ります。
KY活動をやっていればリスクアセスメントは不要ですか
役割が違うので、代わりにはなりません。KY活動は当日の気づき、リスクアセスメントは計画段階での優先順位付けです。設備や手順を変える対策は、計画段階でしか打てません。
まとめ
リスクアセスメントのやり方は、危険の洗い出し、見積り、評価、低減措置の決定、再評価という手順で進めます。目的は点数を付けることではなく、どの危険から手を打つかの優先順位を決めることです。
見積りの基準は文章で残し、迷ったら重大性を優先します。低減措置は、危険な作業をなくす、工学的対策、管理的対策、保護具の順で検討し、保護具に頼りきりにしないこと。実施後は再評価し、残るリスクは作業員に伝えます。着工前の1回で終わらせず、工種の着手前ごとに見直してください。